AIで1人ずつ違う偽メールを作ると、クリックされる割合が約3倍に。7,700人の大学職員での実験で分かった、ネットに出ている情報の怖さと守り方
・ドイツのベルリン工科大学などの研究者が、AIで1人ずつに合わせた偽メール(フィッシングメール)の効果を、大学の職員約7,700人で確かめた研究を発表した。米国のセキュリティの学会「USENIX Security」の論文
・全員に同じ文面を送る偽メールのクリックの割合は3.9%だったが、AIが1人ずつ合わせて作った偽メールは10.0%で、約3倍(2.74倍)になった
・1通あたりの費用は約0.03ドル。研究者は、メールアドレスとつながってネットに出ている情報を減らすことや、こうした偽メールを社内の訓練に入れることを勧めている
ベルリン工科大学などの研究者は、AIで作る「1人ずつに合わせた偽メール」が、どれくらいだまされやすいかを、大規模な実験で確かめました。
偽メールの中でも、相手の名前や仕事に合わせて文面を作り込む「スピアフィッシング」は、だまされやすい一方、作るのに手間がかかるため、狙いをしぼって使われてきました。AIを使えば、その手間がほとんどかからなくなります。今回の研究は、その怖さを数字で示したものです。
この記事では、論文で分かったことを整理したうえで、ふだんの仕事がどう変わるのかを考えます。
大学の訓練の中で、7,700人に確かめた
まずは、実験のあらましです。
論文によると、実験は大学の偽メールへの備えの訓練の一部として、大学のデータ保護の担当、セキュリティのチーム、事務の部門と相談しながら行われました。
| 項目 | 中身 |
|---|---|
| 対象 | 大学の職員7,741人 |
| ネットに情報があった人 | 4,010人 |
| AIで1人ずつ合わせた偽メールを送った人 | 3,310人 |
| 比べた相手 | 全員に同じ文面の偽メール(人が作ったものと、AIが作ったもの)、専門家が手で1人ずつ作った偽メール(100人) |
1人ずつ合わせると、クリックが約3倍に
次に、結果です。
| 偽メールの種類 | クリックの割合 |
|---|---|
| 全員に同じ文面(全体) | 3.9% |
| AIが1人ずつ合わせた文面 | 10.0% |
| 専門家が手で1人ずつ作った文面 | 24.2% |
・AIが1人ずつ合わせた偽メールは、全員に同じ文面のものより、クリックの割合が2.74倍になった。同じ文面を人が書いても、AIが書いても、この差は変わらなかった
・1通あたりの費用は約0.03ドル。ネットに情報があった3,310人全員に送っても、150ドルほどで済む計算だとしている
・ネットに出ている情報が少ない〜中くらいの人のほうが、クリックの割合が高かった
・研究者が、大学の迷惑メールの仕組みに同じ偽メールを試したところ、怪しいと判定されたのは3,949通のうち1通だけだった
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研究者が勧める守り方
ここで、研究者が勧めていることを見ておきます。
・メールアドレスとつながって、ネットに公開されている情報を減らす
・1人ずつ合わせた偽メールを、社内の訓練に入れる
・偽メールは人の書いた文章にとても近いので、迷惑メールの仕組みだけで見分けるのは難しい
仕事はどう変わるか:「怪しい日本語」で偽メールを見分ける時代が終わる
ここからは、論文の結果をもとにした僕の見方です。
今回の研究で変わるのは、偽メールの「見分け方」だと考えています。
これまで、偽メールは「日本語がおかしい」「自分と関係のない内容」で見分けられることが多くありました。AIで1人ずつ合わせた偽メールは、自分の仕事や所属に合わせた自然な文面で届きます。しかも費用はほとんどかかりません。文面の自然さで見分けるのではなく、「メールのリンクからパスワードを入れない」「お金や情報を求めるメールは、別の方法で相手に確かめる」といった、行動の決まりで守る必要があります。
同じ週には、AIで自動化したサイバー攻撃をMicrosoftが警告しています。攻める側のAIの使い方が、急に広がっています。
自分のサイトやSNSにメールアドレスを載せている個人事業主にとっても、取引先を名乗るメールで支払い先の変更やログインを求められたら、メール以外の方法で相手に確かめる習慣が、いちばんの守りになります。
あわせて、知っておきたいこともあります。
・実験は、大学の訓練の一部として、関係する部門と相談して行われたもの
・迷惑メールの仕組みは、AIの偽メールをほとんど止められなかった。仕組みだけに頼らない
・ネットに載せる連絡先は、問い合わせのフォームにするなど、メールアドレスそのものを出さない工夫も考えられる
まとめ:AIで1人ずつ作った偽メールは、クリックが約3倍。見分けるより、確かめる決まりで守る
ベルリン工科大学などの研究では、AIで1人ずつ合わせた偽メールのクリックの割合が10.0%と、全員に同じ文面の3.9%の約3倍になりました。費用は1通0.03ドルほどで、迷惑メールの仕組みもほとんど止められませんでした。
偽メールが、だれにでも安く、自然な文面で届く時代になり、文面で見分けることが難しくなってきた、というのがいちばん大きな変化です。
まずは、メールのリンクからパスワードを入れない、お金や情報を求められたら別の方法で確かめる、という2つの決まりを、自分とまわりで決めておくのがよさそうです。
出典
・Czybik, S., Kouam, A. J., Heubl, P., Nold, J. M., Rieck, K.「A Large-Scale Study of Personalized Phishing using Large Language Models」(USENIX Security ’26) https://www.usenix.org/conference/usenixsecurity26/presentation/czybik
