【本態性高血圧】~病気と栄養~
病気の概要
心臓は、収縮と拡張を繰り返して全身に血液を送り出しています。
その血液が動脈の壁に与える圧力を「血圧」といい、高血圧とは血管に圧力がかかりすぎている状態を指します。
血圧が高い状態が続くと、心臓や血管に持続的な負荷がかかるため、動脈硬化をはじめ、虚血性心疾患や脳卒中などを発症しやすくなります。本態性高血圧と二次性高血圧とに分類されますが、本章では、高血圧のうち90%以上を占める本態性高血圧について述べます。
「本態性」とは、「症状や疾患は存在するが、その原因が明らかでないもの」という意味です。
発症に関与するものとして、遺伝的要因や食塩、アルコールの過剰摂取、喫煙、ストレス、寒冷などの環境要因が挙げられます。
自覚症状はあまりないが、血圧が一時的に上がった場合に頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、不眠、動悸、吐き気などがみられることがあります。
なお、二次性高血圧とは、ほかの病気が原因となって高血圧が引き起こされるものであり、腎血管性高血圧(注1)、腎実質性高血圧(注2)などが挙げられる。
そのような場合は、それぞれの病気に準じた食事療法が必要となります。
(注1)腎血管性高血圧とは、腎臓の動脈が狭窄することにより、血圧が低下した結果、全身が低血圧状態であると勘違いした糸球体が血圧上昇ホルモン(レニン)を分泌して高血圧状態になることをいいます。
(注2)腎実質性高血圧とは、糸球体腎炎、慢性腎盂腎炎、腎不全、糖尿病や膠原病などによる腎症など、腎臓機能が低下することによってナトリウムの排せつが悪くなり、血液中のナトリウムと水分が増えて高血圧を招くことをいいます。
食事の基本方針
高血圧による合併症の発症や進行を防止し、可能な限り血圧を正常域に低下させることを目指します。
(1)食塩(ナトリウム)の過剰摂取を控える
食塩(ナトリウム)の過剰摂取は、さまざまな生活習慣病の引き金となる高血圧の大きな要因です。
そのため、食塩摂取量については、1日当たり8g未満(厚生労働省「健康日本21」第二次)が目標とされています。
さらに、高血圧となると1日当たり6g未満(日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」2009)という厳しい減塩を奨励しています。
食塩摂取量は、年々、減少傾向がみられるものの、目標は達成されていません。
ナトリウムは、食塩などの調味料や加工食品だけではなく、野菜や果物などの生鮮食品にも含まれています。
特に、調味料や加工食品に多く含まれているため、それらの摂取を控えるようにする。
「塩分」=「調味料の塩分」+「加工食品の塩分」+「生鮮食品のナトリウム」
加工食品に含まれる食塩相当量(注)を知りたい場合は、栄養成分表示欄に食塩量が記載されているので確認してください。
ナトリウム量で表示されている場合は、下記の算出方法で求めることができます。
(注)食品に含まれるナトリウム量を食塩量に換算したものです。塩分ともいいます。
-食塩相当量(塩分)の算出方法-
食塩相当量(g)=ナトリウム量(mg)×2.54(換算係数)÷1000
-調味料の食塩含有量の目安-
食品名 | 目安量 | 重量
(g) |
食塩含有量
(g) |
辛みそ | 小さじ1杯 | 6 | 0.7 |
甘みそ | 小さじ1杯 | 6 | 0.4 |
こいくちしょうゆ | 小さじ1杯 | 6 | 0.9 |
うすくちしょうゆ | 小さじ1杯 | 6 | 1.0 |
ウスターソース | 小さじ1杯 | 6 | 0.5 |
トマトケチャップ | 大さじ1杯 | 15 | 0.5 |
フレンチドレッシング | 大さじ1杯 | 18 | 0.5 |
マヨネーズ | 大さじ1杯 | 12 | 0.2 |
めんつゆ | 大さじ1杯 | 18 | 0.6 |
だし風味調味料(顆粒) | 1袋 | 10 | 4.1 |
コンソメ(固形) | 1個 | 4 | 1.7 |
カレールウ | 1人分 | 20 | 2.1 |
ハヤシルウ | 1人分 | 18 | 1.9 |
-加工食品の食塩含有量の目安-
食品名 | 目安量 | 重量
(g) |
食塩含有量
(g) |
梅干し | 1個 | 10 | 2.2 |
焼き竹輪 | 1本 | 100 | 2.1 |
塩鮭 | 1切れ | 80 | 1.4 |
食パン | 1枚 | 60 | 0.8 |
しらす干し | 大さじ1 | 15 | 0.6 |
プロセスチーズ | 1切れ | 20 | 0.6 |
ロースハム | 1枚 | 20 | 0.5 |
焼き豚 | 1切れ | 20 | 0.5 |
-外食の食塩含有量の目安-
料理名 | 食塩含有量
(g) |
天ぷらそば・山かけそば・月見そば | 6 |
みそラーメン | 6 |
カツ丼 | 4.5 |
しょうゆラーメン | 4 |
天丼 | 4 |
にぎり寿司 | 4 |
ざるそば | 3 |
豚肉のしょうが焼き | 3 |
さんまの塩焼き | 1.5 |
(2)カリウム、食物繊維をを十分に摂取する
カリウムは余分なナトリウムを排出し、血圧を下げる作用があります。
主に野菜、海藻類、きのこ類、果物、いも類などの植物性食品に多く含まれます。
また、これからの食品はカリウムに加えてほかのミネラルやビタミン、食物繊維の供給源となります。
食物繊維にはナトリウムやコレステロールの吸収を抑制したりする作用があります。
特に、海藻類に含まれる水溶性の食物繊維は、ナトリウムの排せつに有効である。
ただし、腎臓の機能が低下している場合は、カリウムを多く摂取すると高カリウム血症になり、血圧の上昇を招くことがあるので注意が必要です。
また、糖尿病を合併している場合は、果物の積極的摂取が摂取エネルギー量の増加につながることがあるので推奨されないこともあります。
(3)適正体重を維持する
肥満は血圧を上昇させ、心臓に負担をかけるので、多食多飲は避け、適正エネルギー料の摂取を心掛けます。
脂質を摂取する際は、不飽和脂肪酸を多く含む植物性脂質や新鮮な魚介類の脂質が勧められます。
また、炭水化物の過剰摂取は、血中コレステロールや中性脂肪を増加させて肥満や動脈硬化を促進させるので、砂糖や菓子類はできるだけ控えるのが好ましいです。
一般的に、肥満を解消すると高血圧も改善することが多いので、肥満である場合は低エネルギー食とし、標準体重に近づけて適正体重を維持します。
(4)タンパク質で血管を補強する
タンパク質は血管を補強します。
魚介類や肉類(脂質の少ない部位)などの動物性たんぱく質と大豆、大豆製品の植物性タンパク質をまんべんなく摂取するようにします。
(5)アルコールの過剰摂取を控える
アルコールはストレスを解消し、HDLコレステロールを増加させますが、多量の飲酒は血圧を上昇させ、肥満を招きやすくするだけでなく、タンパク質やビタミンの体内利用を低下させます。
そのため、少量にとどめておくことが望ましいです。
(6)禁煙する
ニコチンが末梢血管を収縮させて血圧を上昇させるので、禁煙する。
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減塩するための調理方法の工夫
急に薄味にすると物足りなく感じます。
薄味でもおいしく感じる調理の工夫をして、少しずつ薄味にする習慣を付けます。
●目分量ではなく、必ず計量スプーンなどで正確に計量して使う
●こんぶ、かつお節、干ししいたけ、干し貝柱などのだしのうまみを利用する
●にんにく、しょうが、しそ、パセリなどの香味野菜やわさび、からし、ごま、ピーナッツなどの風味や香ばしい焼き味を活かす
●酢、レモン、ゆず、すだちなどの酸味を利用する
●とうがらし、こしょうなどの香辛料は、少量であれば減塩効果をもたらす
●ごま油やオリーブオイルを仕上げに使い、風味を加える
●おかずのうち、一品だけは普通の味付けにする。すべてのおかずを薄味にしないことで、物足りなさを和らげることができる
●煮るよりもゆでる、炒めるよりも焼くようにして、素材の味を活かす
●食材の表面に味を付けるようにする。味の付いている部分が直接舌に触れると満足感が高まる。例えば、煮魚の場合、仕上げにしょうゆやみそを入れ、煮汁を食材の表面にからめるようにするとよい
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