【食物繊維(ダイエタリーファイバー)】
食物繊維は「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化成分の総体」と定義されています。
以前は「食物のかす」として評価されませんでしたが、次々と健康機能が明らかにされ、注目されています。
分類
食物繊維に属する物質の分類は完全に整理されているとはいえませんが、食物繊維には水に溶けない不溶性食物繊維と水に溶ける水溶性食物繊維があります。
ー食物繊維の分類ー
種類 | 生理作用 | 多く含まれる食品 | |
不溶性食物繊維 | セルロース | ・便量の増加作用
・有害物質の排せつ作用 ・過食防止 ・あごの強化 ・虫歯予防 |
ごぼう、玄米、大豆など |
ヘミセルロース | ごぼう、玄米、大豆など | ||
リグニン | ごぼう、りんご、バナナ、ココアなど | ||
キチン | かに・えびの殻、さくらえび、きのこなど | ||
キトサン | かに・えびの殻、さくらえび、きのこなど | ||
水溶性食物繊維 | ペクチン | ・便量の増加作用
・有害物質の排せつ作用 ・血糖の上昇抑制 ・血圧の上昇抑制 ・腸内細菌バランスの維持 |
おくら、いちご、いちぢく、りんごなど |
グルコマンナン | こんにゃくいもなど | ||
アルギン酸 | こんぶ、わかめなど | ||
フコイダン | めかぶ、もずく、こんぶなど | ||
マルチトール | 甘味料など | ||
コンドロイチン | ふかひれ、あわび、軟骨など |
役割
(1)不溶性食物繊維
不溶性食物繊維のほとんどは、植物の細胞壁を構成している物質であり、次のような作用があります。
●便量の増加作用
腸の内容物(便)のかさが増え、大腸の蠕動(ぜんどう)運動が活発になり、腸内の通過時間を短縮させます。
●有害物質の排せつ促進作用
腸内に発生した有害物質の排出を促し、便秘や腸に関する病気を抑制します。
●食べすぎの防止
不溶性食物繊維を多く含む食品には、硬くてよく噛まなければならないものが多く、満腹感を得やすくなります。
●あごの強化、虫歯の予防
よく噛んで食べると、歯茎やあごが強くなります。
また、唾液の分泌が促進され、虫歯の予防に効果的です。
不溶性食物繊維は、スムーズな排便には欠かせませんが、胃腸が弱い人は、多く取ると下痢を起こしてしまいます。
また、水分が不足すると便がスムーズに移動できなくなり、逆に便秘を招いてしまうこともあります。
さらに、食物繊維の取りすぎは、鉄やカルシウム、亜鉛などの吸収を妨げ、ミネラル不足に陥る心配もあります。
(2)水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は、植物の細胞内に多く含まれ、次のような作用があります。
●便量の増加作用
便の水分量を増やして軟らかさを保ち、便量を増加させ、腸内の通過時間を短縮させます。
●有害物質の排せつ促進作用
スポンジのように水分を吸収してゲル状になり、余分な栄養素や有害物質を排せつします。
●血糖の上昇抑制
ブドウ糖の吸収を緩やかにするため、血糖値の急激な上昇が避けられ、糖尿病の予防につながります。
インスリンの節約作用もあるため、血糖値のコントロールに役立ちます。
●血中脂質の上昇抑制
胆汁酸は脂質を乳化して、脂質の消化・吸収を助ける働きを持っています。
水溶性食物繊維が胆汁酸を吸着して体外に排せつすることで脂質の消化・吸収を抑制します。
さらに、血中コレステロールの上昇も抑制します。
●血圧の上昇抑制
ナトリウムと結びついて、便と一緒に排せつさせるため、血圧を下げる効果があります。
●腸内細菌バランスの維持
ビフィズス菌などの有用菌を増やし、ウェルシュ菌などの有害な腐敗菌を減少させ、腸内環境を整えます。
水溶性食物繊維は、生活習慣病の予防に欠かせない重要な働きを持ちますが、取りすぎたときに下痢を起こすこともあるので、注意が必要です。
食物繊維摂取量を増やす食べ方
食物繊維は、種類によって生理作用が異なるので、多種類の食物を組み合わせて取るとよいです。
加熱しても全体量にあまり変化はみられませんが、煮たり炒めたりすると軟らかく食べやすくなります。
近年では1日の摂取量が5〜10g不足傾向にあるため、胚芽米、押麦、全粒粉パン、オートミール、シリアルなどを主食として取り入れたり、副菜として、野菜、いも類、豆類、きのこ類、海藻類、果物などを上手に組み合わせるとよいです。
私たちの体に数々の有益な健康機能をもたらす食物繊維でありますが、肝心の口腔機能が頼りない状態では十分にその恩恵を受けることができません。
食物繊維摂取を考える際には口腔機能、とりわけ咀嚼機能の整備につとめなければなりません。
口腔機能には「噛み砕く(咀嚼(そしゃく))」、「飲み込む(嚥下(えんげ))」、「唾液を分泌する」という重要な役割があります。
欠損未補綴(けっそんみほてつ)(歯が欠けたまま放置している人、奥歯がない人など)では、これらの機能が低下してうまく噛めない、飲み込めない状態にあり、特に嚙み応えのあるものが多い食物繊維をよく噛んで食べるという行為は難しい。
そのため、厚生労働省が「健康日本21(第二次)」で掲げる1日350gの野菜必要摂取基準を達成することはできなくなります。
必然的に十分な栄養素が取れなくなることから、体力さらには免疫力の低下につながり、感染症にもかかりやすくなります。
健全な口腔機能と、それによって良好な口腔衛生状態を保つことは、食物繊維の摂取においてはとりわけ重要です。
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