【肝臓病】~病気と栄養~
病気の概要
肝臓病とは、肝炎、脂肪肝、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害、肝硬変、肝臓がんなどの総称です。
発症に関与するものとして、ウイルス、アルコール、薬の3つが挙げられます。
肝臓は、栄養素の貯蔵と加工、分解作用、解毒作用、胆汁の産生などの働きを行っているため、これらの疾患にかかるとさまざまな障害が起こります。
肝炎
肝炎とは、肝臓の炎症性疾患の総称です。
日本人では約80%がA、B、C型のウイルスに起因します。
-主なウイルス性肝炎-
A型 | 流行性肝炎ともいい、ウイルスに汚染された魚介類などを生で食べたり、生水を飲むなど飲食物が原因となる。急性肝炎として発病し、慢性化することはない |
B型 | 主にウイルスに感染した血液、精液、唾液、粘液などによって感染したり、母子感染が原因となる。かつては輸血による感染経路も存在したが、現在はほとんどない。急性肝炎として発病するが、慢性化することもある。感染後、数カ月経って発病し、その後、2カ月で治る一過性感染と、体内にウイルスがいても発病しない(キャリアという)持続性感染がある |
C型 | 主に輸血、医療事故、入れ墨などによって感染する。自然治癒することはほとんどなく、慢性化しやすい性質を持っていて、慢性肝炎患者の約70%を占めている。慢性化すると肝硬変に移行したり、肝臓がんになることもある |
肝炎は、肝臓病で多くみられる疾患であり、急性肝炎と慢性肝炎に大別されます。
(1)症状
1)急性肝炎
病原体によって感染経路は異なりますが、症状や経過はよく似ています。
風邪のような38~39℃の発熱や食欲不振、倦怠感などが現れ、次いで黄疸が発症します。
通常、6カ月以内に治癒します。
2)慢性肝炎
B型肝炎、C型肝炎の慢性化したものが多く、肝臓の炎症性疾患が6カ月以上持続したものをいいます。
(2)食事の基本方針
肝細胞の修復と再生を助ける食事療法が基本となります。
慢性の場合は、食事療法を進めると同時に薬剤による抗ウイルス療法(インターフェロン(注)療法を含む)や免疫療法なども行います。
(注)インターフェロンとは、ウイルスに感染したときに白血球などの免疫に関与している細胞で、体を守るためにつくられるタンパク質の1種です。
ウイルスを除去したり、増殖を抑える働きがあります。
本来は、必要に応じて生成されますが、肝炎にかかると体内でつくり出す量だけでは不十分なため、体外から薬として投与し、肝炎ウイルスに対抗できるだけの量のインターフェロンを補充します。
1)脂質の過剰摂取を控える
肝臓機能が低下すると胆汁の生成能力も低下するため、脂質の過剰摂取は控えるようにします。
日常の活動量に見合ったエネルギー量を設定し、バランスのよい食事を長期間続けることが大切です。
そのため、十分な良質のタンパク質(白身魚、牛もも肉、鶏ささ身、低脂肪乳など)や、消化のよいものを選びます。
2)ビタミン、ミネラルを十分に摂取する
ビタミン、ミネラルの摂取のために、野菜や海藻類、果物を積極的に取りれます。
3)食塩(ナトリウム)の過剰摂取を控える
体内に水分が貯留しやすくなっているため、食塩(ナトリウム)の摂取を控えます。
特に、むくみや腹水のあるときは、注意が必要です。
4)アルコール、刺激物の摂取を制限する
アルコールの摂取は肝臓に負担をかけるため、治癒後6カ月までは禁止します。
また、カフェイン入りの飲料や食品添加物の多い飲料も控えます。
5)食欲不振のときは嗜好を優先させる
急性肝炎の急性期やインターフェロン療法中は、食欲不振が起こることが多いです。
そのため、嗜好を優先させて食べられるものを消化がよくなるように調理し、必要な栄養素を確保できるように工夫します。
食欲のないときは、食事回数を1日4~5回食(頻回食)とし、1回量を少なくします。
不足分は静脈栄養で補います。
6)慢性肝炎の場合は合併症に注意する
炭水化物を過剰に摂取しすぎると肥満につながり、脂肪肝に移行しやすくなるため気を付ける。
肥満があれば解消するために摂取エネルギー量を適正にし、良質のタンパク質を適量摂取するようにします。
合併症を防ぐために食塩の摂取を制限します。
すでに脂肪肝や糖尿病を合併している場合は、それに準じた食事内容にします。
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脂肪肝
肝臓内の中性脂肪が過剰に蓄積した状態を指します。
多くの場合、エネルギーの過剰摂取などの食習慣による肥満が原因です。
アルコールの多飲や糖尿病、妊娠による合併症の場合もあります。
また、一般的に、摂取された中性脂肪は肝臓に蓄えられ、タンパク質と結合して血液中へと移動します。
しかし、タンパク質の1種であるアポタンパクが少ないと、中性脂肪が血液中へ移動できなくなり、肝臓に蓄積してしまいます。
このように、極端な低タンパク質食を続けると脂肪肝を起こすことがあります。
(1)症状
自覚症状はほとんどありません。
肝炎や肝硬変に移行すると、倦怠感、食欲不振、膨満感、黄疸といった特有の症状が現れます。
(2)食事の基本方針
薬物などによる治療は行わず、食事療法と運動療法を行うことが基本です。
肥満が原因となる場合は摂取エネルギー量を適正にし、運動も積極的に取り入れます。
アルコールの過剰摂取が原因となる場合は、摂取エネルギー量の適正化に加えて禁酒を原則とし、糖尿病性の場合は、糖尿病の食事療法に準じます。
砂糖や果物、菓子類を制限し、ビタミンやミネラルの適正摂取を心掛け、1日3回、規則正しく食事を取ります。
肝硬変
肝細胞の炎症と壊死、線維化などが進むことで血流障害を生じ、肝臓が硬化、縮小して肝臓の機能不全を招きます。
また、門脈や胆道の障害が長期にわたると肝硬変に至ります。
発症に関与するものとして、約80%がウイルスの感染によるものであり、アルコールや自己免疫、寄生虫、慢性のうっ血も挙げられます。
肝硬変は、ウイルス性肝炎などから移行した慢性肝炎や、アルコール性肝障害の終末像ともいえます。
(1)症状
症状がほとんどみられない代償期と症状が現れる非代償期とに分けられます。
1)代償期
多くの肝細胞が破壊されてはいるものの、残った肝細胞がその機能を補っているため、ほとんど症状はみられない。
2)非代償期
肝臓の障害が進行し、機能を補いきれなくなった状態にあるので、腹水、下肢のむくみ、倦怠感、低タンパク血症、黄疸、手掌紅斑(注1)、クモ状血管腫(注2)、肝性脳症などが顕著に現れます。
(注1)手掌紅斑とは、手のひらの親指や小指の付け根のふくらんだ部分が異常に赤くなり、点状の赤い斑点がみられることをいいます。
(注2)クモ状血管腫とは、肩から前胸部、首、腕に赤く隆起した斑点がみられ、クモが足を広げたような形に毛細血管が広がる症状のことをいいます。
(2)食事の基本方針
安静と食事療法が治療の中心となりますが、代償期と非代償期によってその内容は異なります。
1)代償期
肝臓を障害から守るとともに、障害された肝機能の修復、再生、賦活(活性化)を目指します。
バランスのとれた食事が重要となります。
また、便が大腸に長く停滞しないように便秘の対策も必要です。
2)非代償期
腹水、下肢のむくみ、黄疸、肝性昏睡などの症状への対応を目指します。
高アンモニア血症で肝性昏睡の恐れがあるときは、タンパク質の摂取量を状態に応じて制限します。
胆汁の生成が悪く、脂質の消化能力が著しく低下するため、油脂は調理用も含めてほとんど使用しないようにします。
肝機能を維持するためのエネルギーは、炭水化物から摂取します。
また、腹水やむくみがある場合は、食塩摂取量を制限し、食事以外からの水分摂取量も調整します。
肝臓の機能が低下することによりビタミンの利用効率が低下するため、十分に摂取します。
特に、アルコール性の肝硬変ではビタミン不足に陥りやすため、ビタミン剤を摂取します。
さらに、低カリウム血症となった場合は、カリウムを補給するようにします。
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