【栄養と健康】
健康と栄養
健康の定義については、1948年に発足した世界保健機関(WHO:World Health Organization)の憲章による「健康とは、身体的、精神的ならびに社会的に完全に良好な状態にあることであり、単に病気や虚弱でないことにとどまるものではない」というものが広く知られています。
この定義は、健康を病気ではないとか、体格がよいといった身体的な面だけではなく、心の健康や社会的な適応性といった精神面や社会面からもとらえた点で意義があるとされています。
わが国は高齢化が進み世界有数の長寿国になりましたが、近年、生活習慣病が著しく増加しています。
このままでは長寿国を維持できないと危惧されながら、平均寿命は伸び続けてきました。
問題は今後、健康寿命(注)をいかに伸ばしていくかです。
(注)健康寿命とは、心身ともに自立し、活動的に生活できる状態のことをいいます。
私たちにとって、食べることは生きることの基本であり、健康維持に深くかかわっています。
食には、次の3つの機能があります。
①栄養機能:生きていくために必要不可欠であるエネルギー源や生体構成成分の補給
②味覚機能:食欲や嗜好を満たす
③生体調節機能:疾病の予防や回復など
これらの3つの機能は、健康的な生命活動を営む上で重要な役割を果たしています。
1日3回食事を取ることは、食欲が本能に根ざしたものとはいえ、大変な労力です。
この食事を、健康を意識して取るか、気の向くままに取るかでは、健康状態にどれほど大きな差が出るか、容易に想像することができます。
健康的な生命活動を営むためには、「いつ」「何を」「どのくらい」「どのように」食べるのかを学ぶことが大切です。
そのためには、栄養や栄養素についての知識を得なければなりません。
私たちが日常的に食べている食物には、さまざまな栄養素が含まれています。
それぞれの栄養素の働きを知り、どんな食物に含まれているのか、どのように摂取すればよいのかを考え、健康的な食生活を送りたいものです。
食生活と食文化
原始時代は、野獣や野草などの動植物を狩猟や採取によって得て、傷まないうちに消費し、生計を立てるといった、その日暮らしに近いようなよく生活であったと考えられます。
しかし、次第に野獣や鳥を飼育して家畜とし、野草や木を改良して作物や果樹として利用するようになりました。
そして、それぞれを増殖させ、生産物を増やし、貯蔵して、飢饉に備えるようになりました。
さらに、魚、肉、卵、乳、果物、種実、穀物といった食物を利用し、火や道具を使っておいしく加工する知恵を身につけました。
酒や酢、発酵乳のような微生物を利用する知恵も加わり、さまざまな調理技術を用いて、食べやすく、おいしい料理をつくり出し発展させてきました。
1)食生活とは
食生活とは、単に食物を摂取することだけを指すのではなく、食物の生産から食べることにまつわる行動をすべて含めた概念です。
すなわち、食生活とは、人間の生活において、食物の生産・流通、選択・購入・調理、摂取など、食物を摂取するまでの一連の食の営みを指すといえます。
<生産・流通>
生産・流通の段階では、その土地の気候や風土、栽培や貯蔵・加工の技術が関与しています。
生産や流通にかかわる設備などが発展することで、新しい食物の開発や、流通方法などが多様化しています。
<選択・購入・調理>
選択・購入・調理の段階は、消費者が食物を選択して、購入し、調理するまでの過程です。
この段階では、地域や家庭によって違いがあるため、個性が表れる場でもあります。
しかし、現代では加工食品の種類が豊富になるなど、外部化されることが多くなっています。
<摂取>
摂取の段階では、実際に食べる食事の内容だけでなく、明るく楽しい食卓の雰囲気づくりも重要な因子となります。
料理に合った食器の選択、音楽を流すなどの食空間の演出は、食生活の豊かさ、楽しさに影響を及ばします。
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食文化とは
食文化とは、人々が自らの手で長い年月をかけて築き上げてきた地域の気候風土にあった食物や食習慣のことをいいます。
生命維持や成長に必要な栄養素の補給にとどまらず、文化による価値観に従って食物の種類を選択したり、料理法や食事作法を変化させたり、断食をする食習慣を持つようになります。
食事を取る時刻、回数、内容などは時代や社会によって異なるため、食事は栄養補給だけでなく、文化であるといえます。
つまり、世界の食文化は、その地で取れた農産物などの食材と、その地域特有の食習慣などが相まって形成されてきたものなのです。
<日本の食文化>
わが国の食文化の歴史は、野原での狩猟や海辺での貝の採取を経て、弥生時代の稲作からはじまると考えられています。
その後も雑穀の栽培が行われ、野菜や山菜、魚介類が中心となっていました。
肉類は鳥や猪、鹿などでしたが、明治時代に入って本格的に牛肉などを食べる習慣がはじまりました。
第二次世界大戦時には食料が極端に不足しましたが、戦後、畜産物の需要が増え、経済の復興とともに食生活改善運動なども進み、食生活は次第に豊かになりました。
米ばかりでなく、パンやめんの摂取量も増加し、諸食の摂取様式は戦前と異なってきました。
また、1960年代の経済の高度成長に伴う社会情勢の変化は、食事の意義、食卓の人間関係、料理技法を大きく変える要因になり、1975年ごろには米を中心として、魚介類、野菜、大豆、海藻類など国内で捕獲、生産される身近な素材を組み合わせる食生活のスタイルに肉類、卵、乳製品などが加わるようになりました。
こうして、日本の食文化の優れた点を継承しつつ、健康的な「日本型食生活」が実現し、地域に根ざした食生活が確立していきました。
食生活や食環境における現状
社会情勢の変化とともに、人々の生活意識や水準が向上し、国民のライフスタイルや価値観、ニーズが高度化・多様化して、食を取り巻く環境が変化してきました。
忙しい生活を送る中で、食の簡便化や外部化が進み、食事内容や食環境、食に対する意識に変化がみられるようになりました。
食生活の変化が私たちの生活や健康によい結果をもたらしましたが、新たな問題も起こってきています。
1)栄養素のバランス
炭水化物や脂質の過剰摂取がみられる一方で、ビタミンやミネラル、食物繊維においては不足しがちです。
エネルギーや栄養素の適正な摂取範囲に対して過剰や不足の状態が続くと、健康が阻害され、過剰症や欠乏症を起こす場合もあります。
2)食環境への影響
子どもは習い事や塾で忙しく、親は仕事で帰宅が遅いことなどに起因して、生活時間にズレが生じ、食卓を中心とした家族の団欒が失われつつあります。
食生活に関する価値観の変化などによって、食事を1人で取る子どもも少なくありません。
このような食生活を楽しめない環境が、心身の不調を訴えるころにつながる場合もあります。
3)食事に対する考え方の変化
以前、日本は食物が不足していました。
しかし、現代では食物が豊富になったため、食への関心が薄れつつあります。
例えば、加工食品や外食の利用の増加といった食の簡便化や、思春期の女性においては、痩身志向に伴う欠食などの食事軽視がうかがえます。
また、健康への関心の高まりとともに、多くの種類の健康食品が販売されるようになり、誰もが手軽に購入できるようになりました。
本来は、日々の食事の補助として使用すべきでありますが、中には、健康食品中心の食生活を送っている人もいます。
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